義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
『好き』の種類は
「……なにがあったとか、聞いてもいい?」
 しばらく何気ない話をしたあと、楓がおそるおそる、という様子で切り出した。梓の息は一瞬詰まる。
 けれど、すぐに自分を奮い立たせた。
 もう大丈夫。ショックはなくならないけれど、とりあえず心はだいぶ落ち着いた。話すくらいならもうできる。
 そういうふうにしてくれたのは楓だ。だからもっと甘えてしまうことになるけれど、話を聞いてもらおう、と思う。
「書類を、」
 切り出した。意外と普通の声が出てきて、ほっとした。
「生徒会からお兄ちゃんに渡してくるように頼まれて、それで持ってきて。バスケ部はここで部活をやってるって知ってたから、お兄ちゃんを探したんだけど……」
 でも核心を話すのは少しためらってしまった。さすがに言いづらい。
「あの、ひとに言わないでね」
 一応言っておいた。楓は「わかってる」と約束してくれた。
 それで梓は口を開いた。声が震える。
「お兄ちゃんが、……告白されてるのを、見ちゃって」
 梓のそれを聞いて、楓は目を丸くする。
「……そうなの」
「ま、まぁ、よくあると、思うんだけど! お兄ちゃんはモテるから……、でも」
 言い訳をするように言ってしまったけれど、そんなことを言っている場合ではない。よって、すぐに話を元に戻した。
「見たっていうか……実感で知ったのも初めてだったし……それでびっくりした、っていうのかな……」
「……そうなんだ。それは驚くよ」
 楓は相づちを打ってくれた。梓は「そうなっても仕方がない」と言ってもらえてほっとした。
 そうだよね、兄妹が告白されてるところなんて見たら驚くよね。
 思ったのだけど、またそれでずきりと胸が痛んでしまった。
 兄妹、というのが胸に迫ってきて。
「起こったのはそれだけ?」
 確認するように言われて、梓は詰まってしまった。その反応が肯定になったのだろう。楓は「全部言っていいんだよ」と促してくれた。優しい声で。
 ためらった。
 こんなことを言ったら、『お兄ちゃんが告白されているところを見た』という事実以上の秘密告白になってしまう。
 楓にも話したことはない。
 お兄ちゃんを好きな気持ちが、恋なのかもしれない、なんて。
 「そんなのおかしいよ」と言われるかもしれない。
 もしくは「恋なわけないよ。だって兄妹じゃん。きっと気持ちを勘違いしてるんだよ」と言われるかもしれない。
 どっちにしろ、怖いことだ。
 楓はそんな冷たいことは言わない。そういう子ではない。
 わかっている。
 けれど、さすがにすんなりと言えることではなくて。
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