義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
「……そうだよね。嫌だと思うと思うよ」
 楓がわかってくれたこと、そしてそれを同意してくれたことに、涙はもっと出てきた。ペットボトルを長椅子に置いて、そちらの手でやっと目元を拭った。
「お、おかしい……よね。ただのお兄ちゃん、なのに」
 無理やり明るく言おうとしたけれど、楓は首を振った。「無理しなくていいよ」と言ってくれる。とても優しい声だった。
 そんなことを言われれば、また涙はこぼれてしまうではないか。
「お兄ちゃんでも、『好き』に変わりはないよ。そんなひとが『ほかに好きなひとがいる』って言ってるのを聞いちゃったら、傷つくと思う。たとえ兄妹だって、取られるみたいで嫌だなって思うことはあると思う」
 楓の優しい言葉にずきりと胸が痛んだ。嬉しさもある。けれど、『兄妹』。それがどうしても刺さってしまう。
「そうかな……」
 楓ちゃんは、私が『お兄ちゃん』を取られるみたいで嫌だ、と思ったのかな。
 それとも、なにか察してるとか。
 どちらかわからない、と思いつつ、梓は単に相づちを打った。
「そうだよ。私にきょうだいはいないけど……親せきのお姉ちゃんが結婚したときとか、そうだったな。もう私とはあまり遊んでくれないのかな、とかさ」
 楓はたとえ話をした。それは『身内』としての、そういう寂しさなどのことだった。
 ので、梓は拍子抜けしたのだけど、それは一瞬だった。
 どくっと胸がひとつ高鳴る。
「でも、梓ちゃんはもっと複雑でしょう。いろんな感情があるんじゃないかな」
 楓の言葉は的確だったので。
 黙ってしまう。『いろんな感情』の中には『恋』らしきものがあるので。それを言っていいものか。
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