義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
 本当は。
 誰かにそんなふうに言ってもらいたかったのだと思う。
 でも『義理のお兄ちゃんを好きになっちゃったかもしれない』と話すのは、否定されたら恐ろしい。ゆえに口に出すことができなかった。
 それだっておかしなことではない。当然の不安だ。
 けれど、渉が前に言っていた、義理の兄妹は結婚できる、という話。あれは本当のことなのだ。
 それなら恋をしても、これは叶うかなんてわからないけれど、付き合うとか結婚するとか、そういうことが起こっても、まるっきりおかしくてありえないことではない。
 いちいち説明するのは必要になるかもしれないけれど。それだけだ。
「たとえ血の繋がったお兄ちゃんであっても、私は梓ちゃんの気持ちが間違ってる、なんて言わないけどね」
 おまけにそれ以上に優しい言葉までくれた。
「だって、誰かを『好き』って気持ちは、感情の中で一番素晴らしいことだもん」
 そう言って、にこっと笑う楓。
 梓の目の前が違う意味でぼやける。ぽたぽたとスカートに涙が落ちた。
 けれど今の涙はどこかあたたかい。
 抱えてきたこと。
 なくなりはしない。
 でも軽くなった。
 とても軽くなった。
 持て余してしまう度合いは、ずっと減っただろう。
 それは大切な友達が肯定してくれたから。受け止めてくれたから。
「ありがとう。私、楓ちゃんがいてくれて、ううん、友達でいてくれて、本当に良かった」
 頬の涙を拭いながら言った。楓は当たり前のように頷いてくれる。
「私こそ。梓ちゃんにはいろんなものをもらってる。だから、困ってるときはお互い様だよ」
「うん。なにかあったら私のことも頼ってね」
「そうするね」
 そこで外からひとの声が近付いてくるのが聞こえた。楓の言っていたように、バレー部が休憩時間に入ったらしい。
 この休憩室にくるひとだっているだろう。
「あ、そろそろ出たほうがいいかな」
 楓が腰を浮かせた。
 楓はバレー部を抜けてきてくれたのだ。「友達が少し具合が悪くなってしまって、心配なので」と言ってきた、と言っていた。
 大事な練習時間なのにそんな言い訳をしてまで自分を助けてくれて。
 今度なにかお礼をできるように考えないと。
 心で決めて、梓は「本当にありがとう」と続いて立ち上がって、笑った。
 もう笑顔になれる。
 渉と今日、普通に話せるかはわからない。
 けれど、渉を見ても、帰宅して一人になっても、もう泣かないだろう。
 大切な親友が、楓が安心と自信をくれたのだから。
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