義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
合宿前日
梓受け持ちの生徒会の仕事がすべて終わった数日後。
合同合宿の日がついにやってきた。
前日、梓はわくわくと旅行バッグに荷物を詰め込んだ。
着替えと洗面道具、身支度に必要なブラシや髪ゴム、スマホの充電器、ノートや鉛筆……荷物はなかなか多くなってしまった。修学旅行などよりは少ないだろうが。
ピンク生地に水玉模様の小さめの旅行バッグをいっぱいにして、梓はぽん、とバッグを叩いた。
明日、出掛ける前に忘れ物がないともう一度確認しないとね。そう思って。
「梓」
こんこん、とノックがされて、梓はちょっとどきっとした。
けれどすぐに「はぁい」とドアを開けてそのひとを迎える。
声のとおりに渉が立っていた。
「明日の準備とか大丈夫か?」
「うん、ばっちりだよ!」
尋ねられるので、梓はにこっと笑った。ちょうど準備を済ませられていたことが誇らしい。
「そりゃ良かった」
渉もつられたように微笑んでくれた。
渉とは、あれ以来も普通に話ができていた。
さすがに当日、梓が『あれ』を見てしまった当日の夜であるが、そのときは多少不審な様子になってしまっただろうけど。
渉だって、落ちついていつもと変わらないように見えたけれど、そんなはずはない。告白されてなにも思わないひとはいないだろうし、自分で「好きな子がいる」と発言したことだって、なにかしら思うところはあるだろう。
「自分のように、相手も告白されたらどうしよう」とか、「そうならないうちにこちらから告白してしまおうか」とか、そういうふうに考えることはいっぱいある。少なくとも、梓は自分がそういう状況になったのならそういうふうに考える、と想像してみた。
だから、その夜、顔を合わせた夕ご飯のときもそうだし、そのあと数日間も少しびくびくしていた。
なにかが起こるのではないか。その心配に。
渉が誰かに告白するとか……それで彼女ができてしまうとか……。
それは嬉しくないけれど、もしくは非常に都合のいい思考だが、それが自分だったら、という可能性はゼロではないだろう。期待半分、妄想半分。
でもなにも起こらなかった。渉の身辺を全部把握しているはずなんてないけれど、渉の態度も話すこともまるで変わらなかったのだ。夕ご飯の時間も「明後日合同合宿だからさ、旅行バッグを干しておいてくれない?」とかそういう話しかしていなかった。
お母さんも普通に「そうね、結構しまいこんでいたでしょ。じゃあ明日、出しておきなさい。物干しに干しておくから」なんて返していた。
お父さんだって「明日は晴れるっていうからよく乾くだろう」なんて、お箸を動かしながら言った。
それはごく普通の、家族の会話。梓も「梓もバッグ、出しておきなさい。一緒に干すわ」と言われて、やはりこれも普通過ぎる会話だった。
そんな日常。変な態度になることなく過ごせているのは楓が助けてくれたからなのだ。感謝のしきりである。
だから前日のこの夜、荷物を詰めていたところへ渉が突然訪ねてきても、すんなり応対できたのだ。
合同合宿の日がついにやってきた。
前日、梓はわくわくと旅行バッグに荷物を詰め込んだ。
着替えと洗面道具、身支度に必要なブラシや髪ゴム、スマホの充電器、ノートや鉛筆……荷物はなかなか多くなってしまった。修学旅行などよりは少ないだろうが。
ピンク生地に水玉模様の小さめの旅行バッグをいっぱいにして、梓はぽん、とバッグを叩いた。
明日、出掛ける前に忘れ物がないともう一度確認しないとね。そう思って。
「梓」
こんこん、とノックがされて、梓はちょっとどきっとした。
けれどすぐに「はぁい」とドアを開けてそのひとを迎える。
声のとおりに渉が立っていた。
「明日の準備とか大丈夫か?」
「うん、ばっちりだよ!」
尋ねられるので、梓はにこっと笑った。ちょうど準備を済ませられていたことが誇らしい。
「そりゃ良かった」
渉もつられたように微笑んでくれた。
渉とは、あれ以来も普通に話ができていた。
さすがに当日、梓が『あれ』を見てしまった当日の夜であるが、そのときは多少不審な様子になってしまっただろうけど。
渉だって、落ちついていつもと変わらないように見えたけれど、そんなはずはない。告白されてなにも思わないひとはいないだろうし、自分で「好きな子がいる」と発言したことだって、なにかしら思うところはあるだろう。
「自分のように、相手も告白されたらどうしよう」とか、「そうならないうちにこちらから告白してしまおうか」とか、そういうふうに考えることはいっぱいある。少なくとも、梓は自分がそういう状況になったのならそういうふうに考える、と想像してみた。
だから、その夜、顔を合わせた夕ご飯のときもそうだし、そのあと数日間も少しびくびくしていた。
なにかが起こるのではないか。その心配に。
渉が誰かに告白するとか……それで彼女ができてしまうとか……。
それは嬉しくないけれど、もしくは非常に都合のいい思考だが、それが自分だったら、という可能性はゼロではないだろう。期待半分、妄想半分。
でもなにも起こらなかった。渉の身辺を全部把握しているはずなんてないけれど、渉の態度も話すこともまるで変わらなかったのだ。夕ご飯の時間も「明後日合同合宿だからさ、旅行バッグを干しておいてくれない?」とかそういう話しかしていなかった。
お母さんも普通に「そうね、結構しまいこんでいたでしょ。じゃあ明日、出しておきなさい。物干しに干しておくから」なんて返していた。
お父さんだって「明日は晴れるっていうからよく乾くだろう」なんて、お箸を動かしながら言った。
それはごく普通の、家族の会話。梓も「梓もバッグ、出しておきなさい。一緒に干すわ」と言われて、やはりこれも普通過ぎる会話だった。
そんな日常。変な態度になることなく過ごせているのは楓が助けてくれたからなのだ。感謝のしきりである。
だから前日のこの夜、荷物を詰めていたところへ渉が突然訪ねてきても、すんなり応対できたのだ。