生涯18
生涯18
リストラされた。
妻と娘に逃げられた。
初めて消費者金融に手を出した。
南條公明(48)、自己アピールをしてくださいと言われたら今この三拍子で自分の説明がつくだろう。ひろあきのひろは広原の広ではなく公明正大の公だ、なんて同窓会で豪語していた28の自分は20年前に置いてきた。
自分で言うのも気が引けてしまうが質実剛健な性格で、小さな町工場に勤める優しい父母に恵まれ決して裕福ではないが南條家の一人息子として大きな病気や怪我に見舞われることなく成長した。
勉強も運動も並、顔もいいとは言えなかったが冴えないなりに悪くはなかった。志望の国立大に現役合格、卒業後は大手企業に就職し社内恋愛の末妻と結婚、一年後に愛娘を授かり念願のマイホームを購入、本当に絵に描いたような順風満帆すぎる人生だった。今思えばあの頃が私の人生の絶頂期で、運や徳を使い果たしてしまったのかもしれない。
だからこそ煤けて客の入りの悪いB級映画のようなあり触れた展開を今、辿っているのではないか。
真冬の公園のベンチ、朝マックで買った100円のコーヒーカップを両手で包んで自分自身を忖度する。
20年前大手企業に勤めている、いずれ自分で企業する、その暁にはいまここで無職を燻っている全員を俺の会社に入れてやる、と酒の勢いでした提案は、無事に音もなく破綻した。
人生において、謎の豪語だとか、予定だとか、目標だとか、そう言ったもは絶対に作らない方がいい。ある程度の目処を立てて言葉にしないで心の奥で携えている、その方が誰も傷つけないし何より自分も傷つかない。言わなければあったことすら誰にも気づかれやしないのだから。
順風満帆が崩壊の一途を辿っていくのは、あっという間ではなく、経年劣化に等しい。スマートフォンが充電回数の一定を越えると起こす、あれだ。いつしか部長が「このまま行けば南條が昇進、この席」と掲げた予定も、予定のままになった。
同じ会社に5年勤めた頃からだ。
初めこそ気鋭の新人なんて謳われていた私の席は部長の向かいから、真ん中になり、端になり、そして窓際になった。
無遅刻無欠席無早退なんてただ真面目を振り翳すだけの自己満足の肩書きは、当たり前の上に乗っかると正直なんの意味もなさない。意味をなさなければ会社の動力源はエンジンの一環になり、ネジの一つとなり、要するに端的に言うときっと「スパイス」が足りなかった。指導力と斬新さ。枠からはみ出ることの真骨頂。
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