生涯18
後から入社した後輩が自分の横をF1カー並みのスピードで通り抜け、出世し、それまで敬語だったはずが5つも下なのに敬語はなくなり命令され、やがて使えない扱いに成り下がった。
その頃にはいつしか掲げていた目標や夢まがいのものもすっかり挫けて窓際でメロンパンを貪るだけの二酸化炭素製造機になっていて、PCに映る自分の顔にだけ貫禄とは真反対の皺と白髪が増えてスーツはなんだかくたびれた。
周りに年下ばかりが溢れ出したつい最近、〝会社の一掃〟と称したリストラを被った。
妻になんて到底言えるはずもない。家のローンだって残っているしその頃大学に進学したばかりの娘の学費も必要で、妻に至っては私を援助するために昼間にパートに出るとまで名乗り出てくれたのだ。
我が妻ながら本当に出来た女性で、娘も高飛車で昨今目も合わせてくれなかったが大切な家族だった。言えば破綻するだろう。ただ、48で失業したくたびれた雑巾のような人間を社会は容易に受け入れない。その頃、フレッシャーズに紛れてする就活が身の程知らずのようで本当に苦痛だった。
いけないと思いつつ、うまくいかない就活と失業後の数ヶ月後、退職金も底を尽きいよいよ消費者金融に手を出して、そしてその金を手に平日、スーツで公園にいるのを、
娘にばっちり見つかった。
それからあれよあれよと言う間に察しのいい娘が全てを暴き妻に通達、彼女も自分に相談してくれなかったことを嘆き娘と共に出て行った。離婚届、は、なかったのが意外だった。それはそうと見つかってからの流れが本当に一日半ほどだったから娘はカラーコーディネーターではなく刑事に未来の職を転身した方がいい、そう伝えたら打たれた。それが本当に一番効いた。
退化はすぐだ。自分がどんどん霞んでいく。
家のローンがある、生活もある。その上抱えた負債を返済していかなければならないというのに職は見つからず髭は伸び白髪ばかりが増えていく。真冬の公園で包んだマックのコーヒーも考えごとの合間にすぐ冷えてしまい、その波紋に映る自分はまるで家なき子だ。家あるし大人だが。
ベンチの隣には二つ目の消費者金融のパンフレットを置いていて、一つ目の借金返済のため手を出さざるを得なくなっている。今こんな姿を、20年前の同窓会の連中に見られたら誰か笑ってくれるだろうか。誰かに金を借りはしない、信頼を失うくらいなら一人で野垂れ死にたい。という名の聞こえのいい金にもならないプライドだけを今もまだ握っている。