生涯18
「物思いに耽っているところ悪いが」
「あ、はい」
「金にならないプライドなんか携えているから重圧になるんだ。消費者金融に手を出すならなんでもいいからパートの広告でも見ろ」
「なぜこんなのを」
「あんたがいつもここにいて私の風景と化してしまうのが実に邪魔だ。人間退化は簡単だが開花も出来る、自分次第でな」
「君のような青い10代に分かるものか」
「私は人生8回目だ」
真顔で言われて顔を上げた。猫背気味でブルゾンに入れていた片手から渡された周辺のパート・アルバイトの求人広告に彼女は早く受け取れ手が冷える、と催促し、それを受け取ってからやはり瞬きをする。
絶対冗談でしかないであろうに、言われてみればそんな気もしていた。謎の貫禄に、JKだと言うのにサムライのような語り口。侍JKと呼ぼう、と心の中で決めてから彼女は心底気怠げに首の付け根を指で掻いた。
そして片膝に置いていた足を下ろし、前傾姿勢のまま私を見る。
「おっさん、18の頃の青さを燻っているな」
「…はい?」
「その青さ、携えて忘れないうちは人は再起出来る。飛躍の道具だ、心の内ってのは」
胸ポケットにさしていた赤いマークペンのキャップを歯で開けて、これとこれとこれがいいと思う、と彼女は求人広告の特定の記事に丸をつけた。そしてそれがなんの仕事か見る前に顔面にチラシを押し付けられ、チラシが剥がれ、目を開けた時目の前に彼女はいなかった。
生き霊か、幻か。
そう思っていたが、別に全然そんなことはなかった。彼女がつけた丸の求人広告はビルの清掃員、ファッションセンターの車両警備員、この真冬だというのに道の端にパイプ椅子を置いてする交通量調査員の仕事だったが、そのどれもなんとか死に物狂いで猛アピールしたら、意外にもあっさり「じゃあ明日からお願いします」と言われた。これらの仕事を見くびっているわけではないが、自分としては許容範囲外だった。だからこそ彼らの方から許容、してくれたのかもしれない。
日払いのものもあるため封筒に入った自分が稼いだ万札を見て、久しぶりに後ろめたい金ではないことに心が震えた。
これ一つで借金返済やローンの足しには到底追いつかないし妻と娘に帰ってきて欲しいは言えないが、自走する手立ての一つにはなったと思う。