ずっとあなたが好きでした。
ストーリーが全く頭に入って来なかった。
僕の目はスクリーンを見てるけど、神経は後ろの席に向いていた。
正確に言えば、後ろにいるであろう翔子に、だ。
だから、ストーリーは素通りする。



「あぁ、面白かった!
広瀬さん、どうもありがとうございます。
本当に楽しい映画でした。」

「……それは良かったです。」

上映が終わり、何気ない素振りで僕は立ち上がり、後ろを振り向いた。
出口に向かう人の波の中に、翔子の姿を探したけれど、オレンジ色のダッフルコートはみつからなかった。



「広瀬さん、ランチは何が良いですか?」

「え?僕ならなんでも…」

主体性のない奴だと思われたかな。
でも、今の僕にはランチなんて、どうでも良くて…



どうしてだろう?
翔子に会っただけで、どうして僕はこんなにも動揺しているのか?
自分で自分の気持ちがわからなかった。



そもそも、この動揺は、翔子に会ったことが原因なのか?
でも、それ以外に原因はあるだろうか?



(あぁ……)



そうだ。
気になってたのは、多分、翔子の連れのことだ。
だけど、なぜ?
翔子に彼氏がいても、何の不思議もないのに…



(……そうか。)



しばらくして、僕はようやくその答えにたどり着いた。
僕の知ってる翔子には、ずっと彼氏がいなかった。
バレンタインデーにも、僕だけにチョコをくれていた。



それは、幼馴染だからだけれど、きっと僕は錯覚してたんだ。
だから、翔子に彼氏がいるということに、嫉妬のような、そいつに負けたような気分を感じたんだ。
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