ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
そんな思いが勝ってか。
その時の私は、まるで周りが見えていなかった。
「あ、これとか可愛くてっ......」
何枚もの写真を見終え、私のお気に入りの一枚が出てきた時。やっと我にかえった。
顔を上げた瞬間、自分がどこにいるのか自覚する。千秋さんの顔が、あと数センチという場所。だらんとした体制で座る彼のそばにピッタリとくっつくようなところまで、距離を縮めていた。
数秒間、目を合わせ、顔を真っ赤にして飛び出すように離れた私。穴があったら入りたい。
「ごめん。近いなーとは思ってたんだけど、言うタイミング逃しちゃって......」
「いえ、こちらこそ......」
鏡なんて見なくても分かる。顔は真っ赤というほど熱くなっていて、気まずそうに目を逸らす千秋さんのことを、私も直視できなかった。
「あの、この写真。親子みたいだなーって。さっき、そう言いたくて。」
誤魔化しきれるはずもなく、そう言いながら落ち込んだ。
色んなものが空回りして、私は大馬鹿だ。
男性に免疫のない、ウブな中学生じゃあるまいし。今や、幼稚園児にだって彼氏彼女がいる時代。それに、アメリカの大学にいた頃は、頬っぺたにキスだって挨拶がわりにしていたんだ。
そんな27歳のアラサー女子が、可愛いだの声が好きだの言われた一言で、何を動揺しているのか。クールにかわせたものを、大騒ぎして恥ずかしいったらない。