ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
「乾杯っ。」
冷蔵庫から持ってきた、キンキンに冷えた缶ビール。カウンターに座る彼の隣で、カチャンッと音を立てて乾杯した。
ピーナッツと、生ハムにチーズ。缶ビール片手につまみながら、楽しそうな礼央と千秋さんが映る写真を見返して、笑みが溢れる。その時ばかりは、まるで本物の夫婦のような空間が広がっていた。
自分でも錯覚してしまいそうになるくらい、初めて味わう楽しい時間は、とても幸せだった。
「礼央は、幸せそうだな。」
「どうしたんですか?急に。」
「いや。父親がいなくても、ちゃんと愛を注いでくれる母親がいれば、良い子が育つんだなーと思って。」
あまりにも哀しげな表情を浮かべ始め、返す言葉に困った。
正直、この関係は、どこまで踏み込んで良いものなのかわからない。
偽りの妻は、どこまで妻でいて良いものなのか。
その線引きがどうしても分からず、ただただ、黙っていることしかできなかった。
「うち、生活と食事と金さえ与えてれば、親の責任を果たしたとでも思ってるような家でさ。家政婦に任せて、自分で育てもしないくせにな。」
目が合うと、その切ない表情に、どうしようもなく胸がギュッと締め付けられる。