ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
第4章
_守りたいもの
翌朝、起きると外は大雨だった。
『今日は用事があるので、早くに出ます。』
正直、今はどんな顔をして会えばいいか分からなかった。わざと彼に会わないよう、朝早くに家を出て、リビングには置き手紙を残してきた。
傘の上では雨が跳ね返り、低い音が鳴る。行き交う人とは顔もあわない。自分の世界に閉じこもったまま歩く道のりは、不思議といつもと違って見えた。
「ふぅ......。」
吐息を漏らしながら、昨夜のキスが蘇る。そっと指でなぞった唇の感覚は、一日経っても鮮明に残っていた。
重い足取りでたどり着いた目的地。千秋さんの言葉が私の心を突き動かし、勇気をくれたおかげで、来る決心ができた場所。
そこは、私が結婚させられそうになっていた神谷家が経営する会社――神谷製薬株式会社。
高いビルの入り口にある門標に刻まれた、その名を前に立ち尽くす。ツルツルに磨かれた大きな石には、雨が打ちつけていた。
「よしっ。」
いろんな邪念を払うように首を振り、自分自身に気合いを入れ直す。これからは、思うように自分の心に従って生きると、そう決めてきたのだから。