ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
コツコツとヒールを鳴らし、久しぶりに袖を通したパンツスーツに背筋が伸びる。受付から見えるソファにしっかりと腰を下ろし、時を待った。
しかし、キョロキョロと辺りを見回して待っていたが、なかなか社長と会わせてくれるような気配は見られない。
かれこれ2時間。座り続け、そろそろお尻も痛くなってきた頃。いつの間にか、ロビーを行き交う人が増え、ランチの時間を迎えていた。
そんな中、こんなこともあろうかと持参したおにぎりを、たった一人食べ始める。余所者の私を不思議そうに見る視線は気にもせず、構わず頬張った。
「やっぱり難しいか......。」
思わず呟いてしまうほど、呼ばれる事はなかった。
名刺を渡したものの、社長の耳まで届いているかもわからない。そもそも、断られたことを強引にお願いして、居座っているだけ。見込みは薄いかもしれない。
ただ、今日だけは、私の意地で諦めたくなかった。
実は、謝ることと別にもう一つ、私には目的がある。それは、私の今までの人生の中で、一番無茶な行為かもしれない。
でも、決意を固めた今。簡単には諦めることはできなかった。
「瀬川様。」
自動販売機でコーヒーを買ったり、何度か立ち上がってウロウロしたりしながら、時間を過ごすこと3時間。ようやく、呆れたように歩いてきた受付の女性に、声をかけられた。
「社長室へ、ご案内いたします。」
座っていた私は思わず立ち上がり、その言葉にパッと顔を明るくした。