ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
――コンコンコンッ
「どうぞ。」
「失礼します。お連れいたしました。」
「いいわ。下がって。」
社長室へと通された私の前で交わされた会話。1人残され、女性はすぐにその場を後にする。
しかし、やっとの思いでたどり着いたその場所にいたのは、私の想像していた人物ではなかった。
声は、女性のもの。
大きな椅子がくるりとこちらを向いた瞬間、驚く私を見て微笑みもせず立ち上がる。
その人物は、神谷社長ではなく奥様の方だった。
「あら。主人だと思ったのかしら。驚いた?」
「いえ、あの。その節は、大変申し訳ございませんでした。」
浮かぶ疑問はさておき、考えるより先に頭を下げて謝った。
「主人は療養中。もう、何ヶ月もこの椅子には座ってないわ。今は、この私が社長代理。」
しかし、謝る私を一蹴して、こちらへゆっくりと出てきた神谷さん。目の前の向かい合うソファに腰掛けると、足を組んだ。
「あなた、朝からずっとこうして座っていたそうね。」
そして、大きくため息をつく。