ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
あれは、紛れもなく千秋さんだった。
会場から逃げるように飛び出した私は、扉の前で立ちくらみがすると、近くの椅子に倒れ込むように腰掛けた。
彼は壇上のマイクの前に立つと、不安げな表情を浮かべてこちらを見た。私がずっとあの場所にいたことを知っていたかのように、真っ先に目線を向けた。
何か言いたそうな顔。けれど、私は目が合った瞬間、耐えきれずに逃げてきた。
「晴日ちゃん。」
挨拶を終えたのか、前の扉から出てきた千秋さん。
ストライプ柄の紺色スーツ。それは、ほんの1時間前まで見ていた姿。
「ちゃんと、説明させて。」
そう言って、彼はゆっくりと近づいてくる。しかし、私は反射的にフラフラと立ち上がり、後ずさった。
「今は......、話したくない......。」
涙目になり、恐怖すら感じるこの状況。体を縮こませ、自分の腕をギュッと掴みながら口元を押さえた。
私が一歩下がるたび、彼は一歩近づいてくる。
一定に離れたその距離を保ちながら、彼はずっとそこにいた。私は戸惑い、言葉を失い、無心で首を横に振る。
「もう......、訳がわからないの。」
「晴日ちゃん。」
「千秋さんが、ウィステリア製薬の社長?.....始めから、うちの病院とも繋がってた。」
震える声でそう言いながら、楽しくもないのになぜか、顔が笑っていた。
「父を、知ってたの?」