ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
「あ、そうそう。晴日、もうすぐ上がりでしょ?」
「え?うん。あとー、20分くらい。」
「じゃあさ、それまで前菜食べてるから、ここで一緒にご飯食べようよ。」
「いいの?やった。お腹空いてたんだー。」
「じゃあ、とりあえずトマトのカプレーゼと――」
双葉たちからオーダーを取り、私はその足でキッチンへと向かった。出来ていた料理に気づき他のテーブルへ運ぶと、また片付けに戻った。
今まで、病院の仕事以外したことがなかった私は、ホールスタッフなんてもっての外。27年の人生で、初めての経験だった。
けれど、始めてみるとだんだん楽しくなってくるもので、自然と仕事には慣れていく。
今では、ここで働けることが生き甲斐になっていた。
「まーたお友達来てるんすか?」
すると、私の片付けているテーブルに顔を出し、何をするでもなく、わざわざ声をかけてきた若い男の子。黒のシャツに身を包み、腰にはエプロンを巻いて私と同じ格好をしている彼は、ここのスタッフ。
少し長い前髪が目にかかり、彼のような今時ヘアも、若干の鬱陶しさを感じてしまうようになった私は、歳をとってしまったのか。
そんな自分を心の中で慰めながら、笑顔を作っていた。
「ごめんねー。うるさかった?」
「いや、そんな事ないっすけど。あの人派手なんで、入ってきた瞬間に分かります。」
その瞬間、手元が急に軽くなる。気づくと、私の持っていたお盆を軽々と持ち上げ、パッと目があった。
「じゃ、そこ拭いといてください。」