ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜

 重いものを運んでくれたり、ちょっと面倒なお客を変わって引き受けてくれたり、さりげなくフォローしてくれる優しい子。

 それは、私と同じタイミングでアルバイトに入った6つも年下の男の子だった。


「瀬川さん。」

 テーブルを拭きながら片付けをしていた時、背後から私を呼ぶ声が聞こえてくる。振り返るとそこには彼がいて、またこちらへ戻ってきていた。

「ん?」

「もう上がっちゃっていいって、オーナーが。」

「え、でもまだ10分くらい残ってるけど。」

「その分、いつも無駄に朝早く来てるでしょ。良いんじゃないっすか?良いって言ってんだし。」

 そう言う彼の奥にはキッチンに立つオーナーが見え、話しているうちに目があった。そして、上がっていいと合図するように、ニコッと微笑み何度か頷く。

 私は、その姿にハッとして、申し訳なさいっぱいに苦笑いを浮かべて返した。


「もしかして(そう)くん、言ってくれた?」

「何のことですか。そんな面倒なことしないっすよ。」

 少し恥ずかしそうに目を逸らし、私の横を通り過ぎていく。


 私は、思わず顔がにやけた。こんな都合の良い状況、彼が一枚かんでいるとしか思えない。

 心の中でお礼を言いながら、後ろで一本まとめていた髪をほどき、バックヤードへ入っていった。

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