ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
「創くん、昨日はありがとうね。」
「いえ。」
結局、昨日のうちにトランク一つ抱えて、お引っ越しをした。引っ越しといってもホテル暮らしとそう変わりはなくて、必要最低限のものは揃っているから、身一つで移ったようなものだった。
「てか、マイ枕とか持ち歩いてる人、本当にいるんですね。シーツ類と一緒に買うのかと思ったら、トランクから出てきて、正直引きましたよ。」
「ちょっとひどい!枕変わると寝られないタイプなんだもん、しょうがないでしょ?」
バックヤードの休憩スペース。
スタッフルームでそれぞれ着替えた私たちは、たまたま出たところで鉢合わせ、そんな会話をしていた。
その時、ドンッと創くんに突撃する勢いで、どこからともなく現れた女の子。
「痛っ。」
「創さんっ、おはようございます!」
「ん、おはよ。」
クルクル巻かれたポニーテールが、創くんの周りを動くたびにぴょんぴょん飛び跳ねている。
均等になるように綺麗にセットされた前髪も、大きな瞳を際立たせる女の子らしいメイクも、全てに余念がない。
長いまつ毛をバチバチとさせ、創くんのちょうど胸の辺りまでしかない身長で、大きな瞳が彼をジッと見上げた。