ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
「ごめん、ここまで巻き込むつもりじゃなかったんだけど。」
リビングにご両親を残し、ゲストルームのベッドメイキングをしに来たところ。後から、静かに扉を開けて入ってきた千秋さんを見て、私は首を横に振った。
「いいんです。むしろ、はいって言っちゃったのは私の方だから。」
そう言いながら平静を装い、抱きしめるように持っていた布団カバーを広げ、彼に背を向ける。
でも、内心は穏やかではなかった。
ご両親がここへ泊まるとなると、必然的に私もここへ泊まることになる。
そんな展開は予想しておらず、今日一日で帰ると思っていた私は、あれからずっと動揺している。そして、それが伝わってしまわないかと、ひやひやものだった。
私はそれ以上何も言わず、黙々とベッドを作り続ける。
その時、横からスッと伸びてきた手。何を言うわけでもなく、枕カバーをセットしながら、近くの椅子に座り込む。
「あの人たちには、時期を見てちゃんと伝える。だから、今回だけ。こんなお願いすることは、もうないと思うから。」
その瞬間、手が止まりギュッと胸が締め付けられた。
なぜだか、無性に切なくなる。
まだ、何も聞けていない。
まだ、何も分かっていない。
何が真実で、何が嘘で、どんなことが隠されていたのか。
私は、何も知らないままだった。
フワフワと気持ちが宙に浮いたまま、時間だけが過ぎていく。それから、その部屋を出るまで、どちらも沈黙を破ることはなかった。