ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
_マリッジリング
千秋さんのご両親はその日、夕方の便でドイツへと帰っていった。
仕事でいない千秋さんの代わりに、2人を空港まで見送った私。帰りのバスに乗り込むと、座った途端、気が抜けたように窓に寄りかかった。
ちょうど飛び立ったばかりの飛行機が、私の真上を通過する。
その時ふと、最後に交わした聖子さんとの会話を思い出していた。
____________________
「わざわざ送ってくれてありがとう。今朝は困らせてしまって、ごめんなさいね。」
「いえ、そんな。」
大きなハットに、大きなサングラス。全身黒で統一されたコーディネートで、オーラ全開の聖子さん。
行き交う人々の視線を集め、ひそひそと話す声が聞こえてくる。
しかし、当の本人は気にも止めていない様子で、私の方がそわそわと周りを気にしていた。
「ねえ、ちょっとだけ話せるかしら。」
すると、突然私の腕を掴み、そう言ってきた聖子さん。
「困らせたついでにもうひとつ、聞いて欲しいことがあって。」
サングラス越しに、うっすら見える大きな瞳にとらえられ、思わずドキッとさせられた。
私は言われるがまま、ご主人にトランクを託す聖子さんの手に引かれ、近くのソファに移動する。
隣り合って座りながら、私は内心どんな話がくるのかと身構えていた。