ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜

「本当、いい大人だって言うのに、我が息子ながら不器用な子よね。」


 周りの喧騒も耳に入らず、聖子さんの言葉がまっすぐ私の中へと入っていく。

 動揺する私の世界は、何の音も耳に入らず、しばらくしんと静まり返っていた。


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 駅前でバスを降りると、白い息がふわっと広がり空気中に揺れていた。


 不意にコートのポケットへ手を突っ込むと、ひんやり硬いものが手に触れる。駅に向いていた足も止まり、ボーッと一点を見つめた。


「これは、もう返さなきゃね.....。」

 それは、千秋さんと生活し始めてから今の今まで、返すタイミングを失って、ずっと持ち続けていた合鍵。

 キーケースを出すたび、ちらりと目に入った。


 ポケットの中でギュッと鍵を握りしめると、私は彼の自宅に向かって歩き出していた。

 今ではもう慣れてしまった、南高嶺の街並み。

 手入れの行き届いた花壇や大きな樹木の間を歩き、高く伸びるマンションを目指した。

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