ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
第6章
_影
ある日の昼下がり。
私は内心、あまり穏やかではなかった。
何度も後ろを気にしながら、アルバイト先へ向かう道のり。ろくに前も見ず、私はお店の裏口へと続く道を慌てて歩いた。
その瞬間、ドンッと鈍い衝撃を受ける。
「おおっ。」
「わっ!」
そして、同時に出た声。私は誰かにぶつかった。
心臓が止まる思いで思考が停止し、パッと顔を上げる。すると、そこには両手を上げた状態で、ムッとした表情を向ける創くんが立っていた。
「ちょっと、瀬川さん。急に激突してこないでください。」
私はその見慣れた顔にホッとして、胸を撫で下ろす。
「びっくりした、創くんか。」
「それは、こっちのセリフです。後ろばっか気にして、絶対ぶつかると思った。」
私は、そんな彼の言葉をハハッと笑って誤魔化すと、またちらりと後ろを振り返る。
「気のせいか.....。」
それは、千秋さんと会ってから数日が経ったある日のことだった。
最近、誰かに見られているような視線を感じる。そう思うことがよくあった。
今日も、家を出てからなんとなく後ろに気配を感じ、何度も振り返りながらここへ来た。でも、姿が見えるわけでもなく、結局モヤモヤとした気持ちが残るだけ。