ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
「え、約束してたの?」
「うんっ。」
「うんじゃなくて。聞いてないから!」
彼に向けて小さく手を振る双葉を見ながら、驚きを隠せない。
自分のことでいっぱいいっぱいで、人の話なんて聞いている余裕がなかった。何日か前、私のアルバイト先に2人で来た日以来、どうなったかは聞けていない。
何やら合図をして、ふらっとどこかへ消えていく零士さん。そんな2人の空気感を見ながら、何かあるような気がして、少し顔がにやけた。
「ほらっ。晴日は、私のことより自分のこと!」
零士さんがいなくなると、急にカバンを手に持ち、身支度を整え始める双葉。
「自分のこと?」
「視線感じるって気持ち悪い話。本気でストーカーとかだったら、ちゃんと警察相談しなよ?」
にやけていた顔から笑みがスッと抜けると、なにやら話を切り上げようとしている彼女を、無意識に目で追っていた。
「まあ、私も心配だし。創くんが送ってくれるって言ってくれてるうちは、甘えたらいいよ。」
そう言うと、満面の笑みでニコッと笑い、さっさと立ち上がる。私はおろおろとしながら手を出し、引き止めるように声をかけた。