ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
それから、私たちは場所を変え、私の暮らすマンションへと移動した。
部屋に招き入れると、父の好きな熱いお茶を用意する。トンッと音を立てて湯呑みを置くと、軽く頷いただけで声は発しない。
未だ、一度も声は聞けていなかった。
口を真一文字に結んだまま、背筋をピンと張って、一点を見つめている。
何度もちらちらと目をやっても、変わらないその異様な空気感。心臓が痛くて仕方なかった。
「あっ、つ......。」
手持ち無沙汰にでもなったのか。湯気が立ち昇る、明らかに熱そうな湯呑みを手に持ち、思わずそんな声が飛び出す。
それが、久しぶりに聞いた父の第一声だった。
「どうしてお店まで?あんな、ストーカーみたいな真似....」
私は、もう一度、挑戦するように話しかけた。
しかし、沈黙は続く。
テレビの音もない無音の空間で向かい合いながら、僅かな音も大きく聞こえる。緊張と気まずさを感じ、まだ話すには早かったと若干後悔しているところだった。
その時、少し間を開けてから、不意に父がこちらに目を向ける。
「結婚を、すると出て行ったんじゃなかったのか。」
「え.....?」
ほんの一瞬だけ交わった視線。私は反射的に聞き返すと、すぐに目を逸らした父が、無理やり熱いお茶を喉に流し込んだ。