ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
「うちを訪ねてきた。」
しばらく沈黙続いた後、重苦しい空気の中、突然そう話し出す。
「訪ねてきたって.....。」
「晴日が家を出てから何日か経った後だったか。結婚を許してほしいと、頭を下げにきた。」
「千秋さんが......?」
思わず聞き返しながら、一瞬訳が分からなくなる。
私の知らない空白の時間にそんなことがあったなんて、まるで気づきもしなかった。
すると、机の上でギュッと手を組み出し、真剣な表情を向ける父。空気が変わったような気配を感じた。
「聞きたいことが、あるんじゃないのか。」
その時、交わった視線に緊張が走る。
心臓の鼓動が大きくなりながら、息が浅くなった。
聞きたいこと――。
私の脳裏にいくつも浮かぶワード。あともう少しの勇気で、それが声になる。言いたいことが、すぐそこまで出かかっていた。
ずっとモヤモヤと考え込んでいたものも、やっとここでスッキリさせられる。そう思っていた。
しかし、いざ父を前にすると怯んでしまい、結局何も言えなかった。
「出資のこと。もう気づいてるんだろ?」
黙り込む私に構わず、そう続ける父。
今度は私が図星をつかれたように、ビクッと反応してしまう。複雑な思いを抱きながら視線を落とすと、なんと言ったらいいか分からずに、そのまま何度か頷くしかなかった。