ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
「来てくれて、ありがとう。」
今の思いが全て詰まった、最大限の言葉だった。
父と対面する時の私は、いつも緊張ばかりしていた。大人になってから、笑顔を向けたことがあっただろうか。そんな記憶すら曖昧だった。
でも、その時ばかりは、穏やかなほど優しい表情ができていた。
「私、正直ずっと、お父さんに怯えてた。」
自分から話しておきながら、勝手に涙腺が緩み始める。じわっと目が潤み、自然と詰まり始めた鼻をすすりながら、ハハッと空笑いを浮かべた。
「ビクビクしてて、いつも身構えてて。怒ると怖いし.....。期待に応えなきゃって、プレッシャーも大きかった。だから、きっとこうやって、本音で向き合おうともしてこなかった。」
無理やり笑顔を作ろうとするものの、震える唇。力を入れながら、必死に堪えていた。
「もっと、早くこうすれば良かった。」
「晴日.....。」
「何で、できなかったんだろうね?」
涙ながらに笑顔を作ると、父はそれからもう私のことを見なくなった。
「ずっと、自分だけが辛いって、自分だけが分かってもらえないって卑屈になってた。でも、違った。何も分かってないのは、私も同じだった。」
何かが返ってくると、期待していたわけじゃない。
ただ、伝えたかった。
自分だけが被害者ズラをしていたけれど、それは全て、私が向き合うことから逃げていた結果。そう痛感させられたから。