ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜

 想像していたような話とは違い、新たに頼んだコーヒーを飲みながら、思わず手が止まった。

 けれど、彼は至って真剣だった。

 一瞬、突然何の話が始まったのかと言いたくなったけれど、何も言わずに聞いてほしいという彼の言葉を思い出し、今は黙って聞くことを選んだ。


「学生時代からずっとフラフラ遊んでばっかで、それが会社継ぐことになるなんて思ってもみなくてさ。そしたら、28の時だったかな。そろそろ将来考えろって、お見合いさせられて。......それが、前の彼女との出会いだった。」

 だんだんと頭が混乱する。

 ちらりと見た千秋さんの顔が、あまりにも穏やかで、愛おしい記憶を思い返すようにどこか遠くを見つめている。

 その姿に、胸がギュッと締め付けられた。

「天真爛漫で、太陽みたいに笑う子で。初めはお見合いも結婚も、乗り気じゃなかったはずなのに。いつからか、俺の方がどんどん惹かれてた。プロポーズもして、結婚する気にもなってた。」


 私の知らない、彼の過去。

 愛のない結婚がしたい――

 偽装結婚を持ち出された時、そう言った千秋さんの言葉を思い出す。訳ありげな彼の言葉に関わる人物。

 知りたいと知りたくないの狭間で揺れる私の心は、複雑な感情で渦巻いていた。


「その人、今は?」

 とうとう口にしてしまうと、一瞬、千秋さんの表情が曇ったのを感じる。鼻から抜けるような息を吐き、切ない表情を見せた。

「亡くなった。6年前に。」


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