ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
亡くなった人には、敵わない。
千秋さんが愛した彩さんは、彼の心の中で永遠に生き続け、その存在は越えられない。
初めは、そんな思いにモヤモヤとしている自分がいた。
けれど、彼女がいなければ、私が千秋さんと出会うことはなかった。千秋さんがいなければ、父を恨んだまま、自分の人生を歩むこともできなかった。
そう思うと、不思議と彼女を受け入れられ、彩さんが引き合わせてくれた運命だとすら思った。
桜の命を救ってくれた彩さん。
千秋さんが本気で愛した彩さん。
一度も会ったことのない人だけど、私は勝手に、彼女を近くに感じている。
私の大事な人たちの心の中にいる女性。だから、私もそんな彼女を大事にしたい。そう思った。
冷たく震える彼の手を、私は優しく包み込む。思いを受け入れるように顔を上げ、彼ににこっと微笑みかけた。
私を見つめる彼の体からは、緊張の力がスッと抜けていく。
手元に視線を向け、そっとケースから指輪を抜き取ると、改めてその大きなダイヤモンドと美しい円を描くフォルムにうっとりとする。
幸せを噛み締めていた。