ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
マンションの共用廊下。家を出た先は、明るいダウンライトで照らされているだけの、窓もない廊下だった。
「もう、最悪.......。」
どこかもわからないその場所とあの男のせいでいらだちながら、そう呟いて歩きだす。すると、すぐ曲がった角の先に明かりを見つけ、同時にエレベーターも発見した。
ホッと安堵し、明かりに近づいて行ったその時。その先の景色を見て、二度見してしまう。
「嘘......、え、高っ。」
窓から差し込める太陽の光。その大きな窓から下を見下ろすと、針の穴ほどの小さな人や米粒ほどの車の数々。近くの建物すら小さく見える。
窓にへばりつき驚く私は、振り返ってエレベーターの近くに表記されている数字を見る。
『30』
「嘘でしょ....」
私は今、30階にいた――
口元を押さえながらボタンを押し、来たエレベーターに乗り込む。1階に降りていく箱の中で、動揺を隠しきれなかった。
それから、本日2度目のセリフ。
「だから、ここどこなの....」
マンションを出た瞬間、見たこともない景色が目に飛び込んできた。緑に囲まれた高そうな住宅街。通り過ぎていく人は、品のある奥様ばかり。
仕方なく携帯の地図アプリを開き、位置情報を確認する。
すると、出てきた地名。
「南高嶺!?」
驚きのあまり、声に出てしまった。