ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
「すみません。」
この空間にいるだけで、息苦しい。ここは、空気が薄い。冷蔵庫からお茶を取り出しコップに注ぐと、さっさと部屋へ戻りたくなった。
「神谷さんだけどな。」
しかし、リビングを出る直前で、突然そう話し出す父。
「このまま進めてほしいとのことだ。早速、週末にもう一度会って、正式に籍を入れることになるから。予定を空けておきなさい。」
「え?」
心臓の鼓動が速まっていく。
週末に入籍――。
あの男の言うことが、現実になってしまった。
「そんな、急に.....」
「急なことはない。前々から進めていた話だ。それに、うちとしては早い方がいいに決まってるだろう。」
今朝は、来週には籍を入れているなんて予想、あり得ないと思っていた。鼻で笑ってしまう勢いだったのに。
「私の気持ちは、聞いてくれないんですか。」
「...........。」
「お父さんっ!」
「どう思ったところで、もう決まっていることだ。」
――パキッ
心の中で何かが壊れる音がした。
一瞬考えたように見えた間は、呆れ気味に小さくため息をついたため。背中越しにでも分かった。話し合う価値なんてないと、言われているようだった。