ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
この結婚からは、絶対に逃れられない。
今、改めて分かったのは、私に残された時間はほとんどなくて、交渉の余地もないということ。
私が取るべき行動はひとつしかなくて、それを実行するのは、まさに今だ。
「お父さん、お母さん。話があります。」
思い立ってからの決断は早かった。
改まったように切り出すのは、これが初めてのことじゃない。矢島さんとのお付き合いを告げた時。あの時も、こんな昼下がりの休日だった。
戸惑う母をよそに、父の向かい側に座る。
「私、結婚します。」
そして、そう宣言をした。
「なんだ急に。神谷さんとの結婚なら、わざわざ言わんでも決まっていることだ。」
話しかけているのに、それでも父とは目が合わなかった。ニュースに夢中になりながら、湯呑みに入ったお茶をすする。
でも、大きな勘違いをしている。私の宣言はそんな軽いものじゃない。
「結婚したい人がいるの。でも、それは神谷さんじゃなくて.....」
――ゴンッ!!!
やっと、目があった。
割れる勢いで、机に叩きつけて置いた湯呑み。お茶をテーブルに飛び散らせながら、こちらを見る目は血走っていた。