ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
「小さい頃から、お父さんの言う通りに生きてきた。死に物狂いで勉強もした。バレエもバイオリンも水泳も、嫌だったけどちゃんとやった。」
昔の記憶を辿りながら、打ち明けたことのない想いを吐き出した。
「やれと言われて、中学受験もした。入れと言われたアメリカの大学も卒業した。病院を継ぐんだと言われた日からは、経営の勉強もしたし、全部全部言う通りにした。逆らったことなんてなかったじゃない!」
どこで息継ぎをしたかも覚えていない。息を切らしながら、ただただ言いたいことをぶちまけて、頭に血が上っていた。
その瞬間、扉の側で顔を出していた桜と目があった。
あまりに私が大きな声を出したせいで、部屋から出てきてしまったんだと思う。
「それでも唯一、自分の意思で決められたのが、矢島さんとの結婚だったんです。」
心配そうに見つめる桜を見て、少しだけ冷静さを取り戻した。
「晴日、お前.....」
「お父さんは、その唯一を私から奪った。」
今まで、守ってきたものはなんだったんだろう。
お父さんの顔色を伺って、それでも認められたくて、褒めてほしくて。人一倍努力をした。友達とも遊ばず、桜の分までとずっと頑張ってきた。
「もしこれで、神谷さんと結婚してしまったら、もうそれは私の人生じゃない。お父さんの人生です。」