ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
矢島さんは、某有名医科大学を主席で卒業した、将来を有望視される外科医。さらには178センチと高身長なうえに端正な顔立ちからか、同僚や患者さんからの人気も高かった。
父の病院で経理として働いていた私も、そのうちの一人。一目で恋に落ちていた。
偶然、彼と話すようになってから、私たちが付き合うまでに時間はかからなかった。
そしてその恋は、あの父ですら反対はしなかった。むしろ、彼との結婚を薦めてきたほど。信頼の厚い矢島さんが相手ならと、快く受け入れてくれた、......はずだった。
それなのに、こんな仕打ちはあんまりだ。
「晴日、頼むから。このまま戻って、式に出席してほしい。」
「嫌。どこに恋人の結婚式に出る女がいるの?もし戻れって言うなら、何もかもめちゃくちゃにしてやるから。」
脅し文句のように睨みつけ、戻る気なんてさらさらなかった。
すると、彼は呆れたようにため息をつく。
「晴日がそんなことするはずない。だって、何よりこれは大好きなお姉さんの、桜さんの結婚式。桜さんを傷つけるようなこと、晴日は絶対しないだろ?」
その瞬間、頭に上っていた血がサーッと引いていくのが分かった。
見透かされているようで悔しい。桜のことを持ち出されたら、私は何も言えなくなる。あの家で、唯一の私の居場所。桜だけが、ずっと私の癒しの場所だったから。
「.....分かった。」
私はただそれだけ言うと、彼と目も合わせずに黙ってその場を立ち去った。これは、桜のため。
そう自分に言い聞かせながら、平常心を保って――。