ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
私たちが入籍したのは、千秋さんの家に来てから1週間ほど経ったあと。それは、父が神谷さんと入籍させようとしていた、5月5日。そこにこだわった。
ふと天井を見上げながら、その日の記憶が蘇る。
あの日は私にとって、なかなか濃い1日だったから。
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「本当にいいんだね。これで役所に提出したら、晴れて俺たちは夫婦。後戻りはできないよ?」
「いいんです。心は決まってるから。」
私は、震える手で婚姻届に判を押した。
千秋さんの名前と私の名前が並び、2人の判子が押されている。なんだか、不思議な気持ち。
「あ、これどうします?証人。」
そんな婚姻届を眺めながら、未だ空白になっている証人欄を見つめた。誰にも相談せず、2人で決めた結婚。頼める人なんていない。
「役所の人に頼んでもいいって言うし、正直それでもいいかなとは思ったんだけど。」
「思ったんだけど....?」
「うん。できれば、お互いこの関係を知っててくれてる人も必要かなって。どう?」
つまり、それは誰かにこの結婚のことを打ち明けるということ。
前々から考えていたかのように、冷静にそう提案してくる彼。私は、少しだけ迷いが生じた。