ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜

 でも、彼は矢島さんじゃない。

 いつもの調子に戻った千秋さんにクギを刺され、ハッと我に返った。冷たい言い方をして、真顔でスマートフォンをいじる。

 現実に引き戻された気分だった。
 

「千秋さんって、謎。」

 きっと、落ち込む私を慰めてくれたはずなのに、アメとムチの速度が速すぎて、ついていけない。

 少し嬉しかったのに、やっぱりまだ"感じは悪い"。

「なにが?」

「冷たい人かと思ったら優しかったり、どっちが本物の千秋さん?」


 よく分からない。まったく心が読めない。


「どっちも俺だよ。」

 そう言いながら、千秋さんはスタスタと前を歩いていく。

「やっぱ、謎。」

 置いていかれた私はそう呟き、眉間にシワを寄せた。


「ほら。次、零士のとこ。」

 横断歩道の向こう側。待ちくたびれたようにこちらを振り返る彼。私はため息をつきながら、小走りになって近づいた。

 私たちはこの後、『Bar 零』に向かう。今度は零士さんに、この偽装結婚を打ち明けるため。


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