ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
_私たちの距離
私は、彼のことを何も知らない。
藤澤 千秋、37歳。高級住宅街が立ち並ぶ、南高嶺のタワーマンションに、1人で住んでいる。知っているのは、これだけ。
仕事の内容を聞いてもはぐらかされ、「人を救う仕事かな」と曖昧な答えをするばかり。
人とは違う形の結婚をしている手前、無理強いはできない。割り切った関係だからと、必要以上のことを教えたくない。その気持ちは分かる。私もそうだから。
でも、仕事のことくらい教えてくれてもいいのではないかと、思ってしまうのが本音だった。
「あの、私こういうところ初めてで。」
「へえ、意外。病院の付き合いでなかったんだ。」
「父は行ってたかもしれないですけど、私は....。それに、うちはそんなセレブ病院でもないですし。」
例の、週末がやってきた。
あのドレスに身を包み、千秋さんの運転でここまできた。今日、初めて見た彼の車。地下駐車場にとめてあったそれを見て、驚いた。車の種類に疎い私でも、名前くらいは知っている。真っ白な高級車――レクサス。
何者なのか。また、謎が深まった。