ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
「矢島さんとのこと、知らなかったの?」
すると、桜は唐突にそう言った。眉のあたりで切り揃えられた前髪によって、はっきりと見える表情。眉尻を下げ、潤んだ瞳が見上げてくる。しゃがみ込む私を不安げに掴んだ手は、とてもひんやりとしていた。
さすがに、それにはどう反応したらいいか分からず、笑って誤魔化すしかなかった。
「そうなのね?私、お父さんから、晴日と矢島さんは別れたって。晴日もこのことは承諾してるって、そう聞いてたの。でも、違ったの....?」
桜は、何も知らなかった。戸惑う彼女を見て、確信した。全ては父の策略。どんな意図があってのことかは分からないけれど、私たち2人を騙していた。
「私、どうしよう......」
そう言いながら、急に胸を押さえ出した桜。過呼吸のように苦しそうな息を吐き、顔は真っ青だった。
「誰か!先生!」
慌てる私は、いつも桜についている主治医の先生を呼ぼうと、部屋を飛び出す。でも、いるのは式場のスタッフだけ。
私は震える手を押さえながら、叫び続けた。その瞬間、タイミング良く到着した矢島さん。目が合い、事態を察知した彼が、慌てて部屋に入っていった。