ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜

 藤澤 聖子と言えば、世界的に有名なピアニスト。

 藤澤なんてそう多い名前でもないけれど、さすがにそんな有名人の家族だなんて、思いもしなかった。


「千秋。」

 いつの間にか挨拶を終え、ステージから降りてきていた彼女。紳士的なおじ様に手を引かれながら、こちらに近づいてきた。

「ああ、父さん。母さん。」

 そして、見たことのない柔らかい表情を見せる千秋さんと、抱擁を交わす。そんな様子に唖然としながら、隣に立つ私は1人でそわそわとしていた。


「ねえ、こちらの方が?ご紹介して?」

 すると、早速話題は私の方へと向けられた。

 30年前、美しきピアニストとして名を馳せた藤澤 聖子。60歳になっても尚、変わらない美しさは、業界内でも有名だった。


「紹介します。先日結婚した、僕の妻の晴日です。......晴日、僕の父と母です。」


 彼は、今までに見たこともないくらいしなやかな動きをしており、思わず呆気に取られた。

 そして、言葉の端々に見える違和感。僕と言ったり、私にまで敬語で話したり。気を取られ、一瞬挨拶が遅れてしまった。

< 60 / 264 >

この作品をシェア

pagetop