ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
矢島さんが子供の頃、彼のお母さんがうちの病院に入院していた。
ステージ4の乳癌。見つかった時には、もうすでに内臓や骨への転移も見つかり、助からないとされていた。余命宣告をされ、亡くなるまでの間、病院で抗がん剤治療を受け続けた。
その時の担当医が、私の父。
当時5歳だった矢島少年は、若い頃の父が懸命にお母さんを支えてくれたのを見て、医者を目指そうと思ったという。うちの病院を選んだのもそのため。
私が矢島さんに恋に落ちたのは、偶然か必然か。それとも、瀬川家に入り込みたいという彼の企みだったのか。今となっては分からない。
だけど、初めて会った時、すぐにそう打ち明けてくれた矢島さんの目に嘘はなかったと思う。
私は、嘘のないそういう彼に、惹かれたのだ。
「院長に頭を下げられて、頼み込まれたら断れなかった。晴日のことは本当に愛してたけど、院長のことも裏切ることはできなかった。」
思い返していると、辛そうな感情を押し殺すように笑って、誤魔化す彼が声を出した。
無造作に伸びた黒髪をかきあげ、大きく息をはく姿に、心が痛くなった。