ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
「母さんとの思い出のあの病院は、なくしたくなかった。」
矢島さんにとって、瀬川総合病院がお母さんとの思い出の場所。
絵本を読んでもらったり、今日あったことを話したり。どの記憶を思い出しても、全て真っ白いベッドにもたれかかっている、お母さんの姿が思い出されると言っていた。
それを聞いていた私は、その気持ちが痛いほど分かった。
「本当は、お義父さんに別れろって言われてたんだ。」
すると、彼は突然そんなことを言い始めた。
「でも、できなかった。3ヶ月もあって、何度も言うタイミングはあったのに。晴日の手を離せなかった。」
その瞬間、一筋の涙が頬を伝う。
「馬鹿だよな。何も知らない方が傷つく。結婚式当日に知らされた方が、残酷だって分かってたはずなのに。嘘でも、愛してないなんて言えなかった。嘘でも、別れたいなんて言えなかった。言いたくなかったんだ。」
彼からの言葉を聞けば聞くほど、涙が溢れ出した。
ずっと、私が聞きたかった言葉たち。彼が桜と結婚し、私の前からいなくなった日から、分からなかった彼の想い。
あれから何度も考えていた。
私は、どこで道を踏み外したんだろう。どこで間違えてしまったんだろう。どうして、こんな思いをしなければならないのだろうと。
1人でいる時は、そんなことばかり考えていた。