ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜

「今までありがとう。大好きだった。」

 もう振り返らない。どこかで線を引かなければ、ずっとこのまま。この恋の中に囚われて、動けなくなってしまう。だから、前に進むために乗り越える。

 大好きだった彼に、別れの言葉を告げると今誓った。


 私は、言い残すように立ち上がった。そして、彼の目も見ずに足早に歩き出す。

 その時、すれ違い様に腕を掴まれた。

「幸せになれる?」

 その声にピクッと反応しながら、立ち尽くした。力強く掴まれた腕に顔を歪めながら、彼の顔を見る勇気がなかった。

「そいつといて、幸せになれんの?」

 もう一度、確かめるように言う言葉。私は、消えそうな声で呟いた。

「なりたい......」

 それは、願望のようなものに近かった。

 その瞬間に離れた手。私は、すぐにこの場から立ち去ろうとカウンターへ走った。


 目の前には、零士さん。戸惑ったように見ていた彼の視線を横目に、鞄を引き寄せ急いで財布を探した。

「大丈夫?」

 その時の私には、心配そうな声に答える余裕なんてなかった。

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