ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜

「晴日ちゃん?」

 その声で、ハッと我に返った。

 扉の方で、電気のスイッチに手をかけたまま、不思議そうにこちらを見ている千秋さん。片手でネクタイを緩めながら、ゆっくりと近づいてきた。

「どうかした?電気もつけないで。」

 気づくと、時計は8時を回っていた。外は、もう真っ暗。何時からこうしていたのか。まるで頭が回らない。


「あ、ご飯......。ごめんなさい。私、何も。」

「ああ、それはいいって。言ったじゃん。無理はしなくていいって。」

 あたふたと立ち上がったところで、腕まくりをしながらキッチンに向かう彼。慣れたように冷蔵庫を漁りながら、背中越しにそう言った。

「お腹空いてる?なんか作ろうか。」

「あー......」

 私は言葉に迷いながら、ストンとまた座る。

 食欲はなかった。でも、何かあったのかなんて聞かれるのも、答えるのも嫌で、言えなかった。


「今日、どっか行ってたの?」

 すると、私の答えを聞く前に、また質問が降ってきた。キッチンからは、何かを作り始めるような音が聞こえてくる。

「ずっと座ってたわけじゃないでしょ?」

 そして彼は、何事もなかったかのような表情で、普段通りに声をかけてきた。

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