恋する乙女はまっしぐら~この恋成就させていただきます!~
近づけばきっと彼女に心が捕らわれてしまう。

"近づくな" と俺の本能が警告する。

誰のことも巻き込みたくないし、苦しませ悲しませたくはない。

高校生の時に俺の背負っている肩書きに気づき、反発するように生きてきた。

戸籍では父親と認知されている男と同じ道に進むことはためらわれたが、それでも俺はどうしても晒名総合病院で晒名医院長の元で働きたくて医師の道を選んだのだ。

その思いが俺の全てで、この望みを叶えるのでさえ、かなりの苦労と障害があり大変だった。

だから俺の結婚も、惚れたはれたて簡単にいかない予想は容易につくのだ。

なるべく人と関わらないように、特に異性には関わらないように注意しながら過ごしてきたつもりだった。

"魔が差した" 

そう、あの日俺はうっかり彼女と関わってしまったのだ。

あの瞳に惹き付けられた俺は自ら彼女の視界に入ってしまった。

何度も何度も突き放したつもりでいた。

それでも完全に無視することだけはできなかった。

突き放してもまだ俺に好意を寄せてくるれる彼女に、安堵しながらもしかしたら、彼女なら俺の世界をぶち壊してくれるんじゃないかと微かな希望を抱いてもいた。

そう、俺の心も微かに揺れてはいた。

それでも、出会ってからのこの長い年月、まっすぐに俺を追いかける彼女の人柄を知れば知るほど遠ざけなければいけないという思いは強さを増した。


それなのに…。

俺は…。


頭では理解しているのに、彼女を見かけると俺の言動はだんだんセーブができなくなっていて、可愛らしい彼女の姿に気を抜くとうっかり笑みがもれていた。
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