恋する乙女はまっしぐら~この恋成就させていただきます!~
ホテルのロビーに入ると、スーツ姿の若い男性たちが、先生の姿を見つけると遠くから会釈してきた。

見知らぬその顔ぶれに、他の病院の医師たちなのではと推測する。

会釈を返す先生に合わせて、私も一緒に会釈する。
置いていかれないようにしっかり先生の隣のポジションをキープして、先生の連れなことを自分なりにアピールする。

会場に足を踏み入れると、注目されているのがよくわかる。

沖田先生は医師として有名人だ。

今まで1度も参加したことのない先生が、初めて懇親会に参加して、しかも女連れで来ているのだ。
注目されて当然だ。隣にいる私には、突き刺さるような女性からの視線が一斉に注がれ、好意的でない多くの視線に怯みかける。

さっと見渡した会場内は綺麗な女性たちしかみあたらない。

医師でもお嬢様でもない私は、先生の隣に並ぶにはいくら頑張って着飾ってみても、その容姿でさえ先生に不釣り合いなことを今更ながらに認識して、急に恥ずかしくなりうつむいた。

覚悟してきたつもりだった。

それなのに、この場の空気にのまれて足は震えてうつむいたまま顔をあげることができない。

「…真琴」

ぽそっと呟く声と同時に私の右手は温かな大きなぬくもりに包まれた。

びっくりして見上げたその手の持ち主は、私と目が合うと再び

「真琴」
と今度ははっきり私の耳に届くように名前を呼んだ。

「そうだ、顔をあげて堂々としていろ。
大丈夫だ、お前は俺が選んだ女だ。
自信をもっていつものようにまっすぐ俺のことだけ見ていればいい。
お前は俺の恋人だ」

あぁ、この人はなんでこんなところでそんな優しい瞳をして私に微笑みかけるんだろう…。

初めて触れた大きなぬくもりを感じられないくらいに、今は私の体温のほうが急速にあがっている。

私の体温も、とんでもなく動揺している私の心拍数も、この繋がれた手から全部伝わってしまっているのだろう。

真っ赤な私を見て先生はクスクスと笑う。

「そうだ。俺だけ感じて俺だけを見ていろ。
いつも通りのお前でいい」

あぁ、もうそんな顔をして甘い言葉を言うなんて、これ以上ないくらい好きなのに…。

好きが無限に広がって私はますますこの人に落ちていく。
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