恋する乙女はまっしぐら~この恋成就させていただきます!~
腰に腕を回されたまま、私たちは会場出口に向かい歩いていく。

密着した体の半分が熱くて、ふわふわした足取りはまるで酔ってでもいるみたいだ。

「あの…先生…」

「もう少しだけ我慢しろ。
しっかり今日の役目を果たしたら約束どおりお前にチャンスをやるよ。それに、ちゃんと今日のごほうびもやるから期待しとけ」

無邪気に笑うその表情は先生の素なのだろうか。

私を抱き寄せたままさっそうと出口に向かい歩く私達は、来たときと同じくらい注目を集めている。

だけど、私はもう卑屈にも思わないし、何も恐くはない。

だってこんなにも沖田先生を好きな気持ちだけは、誰にも負けやしないのだから。



「直紀、挨拶もなしにもう帰るのか」

会場を出かかり、腰に回された手が離れようという時に、先生を呼ぶ声が背後からかけられた。

先生をまとう空気が瞬時にいつもの誰も寄せ付けないピリピリしたものに変わる。

いや、いつも以上に先生はピリついている。その様子に私の背筋も緊張してピンとのびた。警戒しながらそっと見上げたその横顔は、今までに見たことないぐらい冷たい目をして冷淡な声で言葉を返した。

「あぁ、来てたんですね尊さんも。すみません、人が多くて気が付きませんでした」

長身の沖田先生と同じくらい高身長の男性は、ピリピリしている先生とは正反対でやわらかな笑みを浮かべ穏やかな空気をまとっていた。

優しい瞳がすぐに先生から私にうつり私と視線が交わると

「ようやく参加したと思ったら可愛らしい女性と一緒だから驚いたよ。
直紀、俺に紹介してから帰れよな。
それとも、俺には会わせたくなかったか?」

すっと細められた瞳は、先程向けられていた優しい瞳ではなく、まるで私を見定めるような鋭い眼差しに変わっていた。

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