恋する乙女はまっしぐら~この恋成就させていただきます!~
「いえ、記憶違いなんかじゃありませんし、私は医師でもありません。
沖田先生と同じ病院の栄養科の管理栄養士で、主に調理の仕事をしています。

出身も山形で、山奥の温泉宿が実家で…ひゃっ!」 

にっこり笑って答える私を先生が私の顔を隠すように抱き締めた。

「尊さんにもあの人にも僕が誰と付き合おうが関係ないでしょう!」

怒気を含んだ先生の声を嘲笑うように

「あぁ、誰と付き合おうが誰と関係を持とうが関係ない」

と先ほどまでとは別人のような冷たい声が耳に届く。

「その女を気に入ってるなら直紀の母親のように愛人として側に置けばいいだけさ。

だが本気になるのはかまわないが籍だけは勝手に入れるなよ。

わかってるな。俺もお前も自由になんていきれやしないんだよ。

わかるよな…。


直紀、これ以上その女にのめり込むな。

ホンダさん、キミも正妻には絶対になれないんだから目を覚ますといい。

直紀と付き合っていても玉の輿になんてのれないんだから医者がいいなら私の病院の有望な医師を紹介するよ」

「嫌っ…、そんなの嫌です!」

抱き締められていた先生の腕をすり抜けまっすぐにお兄さんを睨み付けた。

「私、玉の輿にのりたくて沖田先生と付き合ってるわけじゃありません!!

7年っ!!7年片想いしてようやく恋人っていってもらえたんです!

お兄さんに反対されてはいそうですかって簡単になんてひきさがれませんっ!!

恋する乙女のパワーをなめないで下さい!

私、何があっても引き下がりませんし先生の隣は誰にも絶対に譲りませんっ!!」

ぎゅうっと先生にしがみつくと、ぽかんとした顔をした二人が目を合わせて吹き出した。

「くくっ、直紀、お前すごい女を選んだな」

「ふっ、…そうですね」

「…このコなら、もしかすると何かかえてくれるのかもな…。

まぁでも俺は悪いがお前たちの肩はもってやれない。

一応、忠告はした。

勝手な結婚は許されない。
まぁどこまで悪あがきできるか黙って見ててやるよ。

ホンダさん、その乙女のパワーってやつで頑張ってくれよな。引き留めて悪かったな。じゃあまたな、直紀に真琴ちゃん」

遠ざかっていく足音に緊張の糸がプツンと切れた。
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