恋する乙女はまっしぐら~この恋成就させていただきます!~
「ったく。忙しいんだ俺は。
ほら、落とし物だ。これを届けにきた。
じゃあな、落ち着いて仕事しろよ」

私にハンカチを押し付けて、先生は白衣を翻してそのまま非常階段から降りていった。

「あっ…」

お礼を言いそびれたけど、これ…私のじゃない。

たぶんさっき一緒に話していた外科のナースのものだ。

彼女に確かめるより先に、わざわざ私を追いかけて6階の栄養科まで来てくれた。

そんな些細なことが嬉しくて嬉しくて仕方がない。


「真琴ちゃん、顔にやけてるよ」

「初めて間近で沖田先生見たけどほんと、イケメンだわぁ」


「うんうん、いい男だねぇ」


パートのおばちゃんたちのうっとりする声に

「でしょ、でしょう!!
ほんっっとに!格好いいんですっ!沖田先生以上のイケメンなんていませんよ!

ぜぇぇぇっったいに、年内には妻の座をゲットするので結婚祝い準備して待ってて下さい!」

声を弾ませて鼻息を荒くしている私に、みんなは笑いながら

「じゃあ1人100円の集金だわ」

「えーっ!
安くないですか?屈折7年ですよ!せめて300円にして下さいよ。

まぁ、駄目だった時は潔く立ち去るんで、その時は送別品になりますからペアものとか名入はやめて下さいね」


「ちょっとちょっと!
破断したら仕事辞めちゃうつもりなの!?」

「あっ…。

やっやだなぁ、辞めませんよ。
沖田先生との破局の送別品って意味ですよ。

あぁっ!!

そんな縁起でもない話しはやめです、やめっっ!!

来年には絶対に改姓してますからシフトの名前 "沖田真琴" に変更お願いしますねマネージャー」

遠巻きに見ていたマネージャー
は、私と目が合うと苦笑いしながら手を叩いて

「さっ、みんな仕事に戻った、戻った。幸せボケしてる本多がミスしないようにみんなしっかり目を光らせてくれ」

マネージャーの言葉にみんなは持ち場に散っていき、私のすべての事情を知っているマネージャーは、すれ違いざまに小声で

「本多が来年抜けるのはいたいからな。俺に退職処理させるなよ」

と耳打ちし、肩を軽く叩いて事務所へ入って行った。
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