【電子書籍化】悪役令嬢は破滅回避のため幼女になります!
 次の朝、イリーナは起こしに来たタバサに昨日と同じ台詞を言う羽目になった。

「ねえ……これって、まさか……」

「王子殿下からのお届け物でございます」

「ひいっ!」

 うわずった悲鳴を上げてイリーナはベッドの上後ずさる。

「な、なんで、私、送り返してと言ったでしょう!?」

「はい。ですからわたくしはもう一度、完璧に真心込めての梱包作業を施した後、可及的速やかに発送して参りました。そして即日当家に届けられたのがこちらになります」

「なんなのよ……」

(意地でも私に悪役令嬢やらせるつもり!?)

「タバサ」

 返してきてと言う前に先手を取ったのはタバサである。

「お嬢様。差し出がましいことを申しますが、これでは同じことを繰り返すだけではありませんか?」

「うっ……」

 確かに。そのたびに心臓に悪い寝起きが待っているのも困る。

「そう、よね。わかったわ。大人しく引き出しの奥にしまっておくことにする」

 最初からそうすれば良かったのだ。イリーナはベッド脇の机の引き出しを開けて箱をしまった。

「ではお嬢様、本日のご予定はいかがなさいますか?」

「ひき続き父様たちの目を盗んで本を読むわ」

「かしこまりました。ですが本日は坊ちゃまがご在宅となりますが」

「そう……」

 とはいえ広い侯爵家だ。そうそう顔を合わせることはないだろう。

(――なんて、楽観視していた自分を呪いたい!)

 廊下の真ん中で鉢合わせしたオニキスは妹を認めるなり声をかけてきた。

「ようやく部屋から出てきたか。身体はもういいのか?」

「少しは……」

「そうか」

 お互いに奇妙な間が続く。十七歳のイリーナほど険悪ではないが、仲睦まじいといった記憶もない。

「失礼します」

 視線から逃れるようにイリーナは書庫へと向かった。

(ほんの少し顔を合わせただけでも緊張する! 兄様の目って、黙っていても迫力があるのよ。主人公も目つきが怖いって言って……悪役令嬢の家系なんだから納得か)

 自分だって人のことを言えない悪役顔だ。
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