【電子書籍化】悪役令嬢は破滅回避のため幼女になります!
「イリーナ!?」
背後でアレンが自分を呼ぶけれどもう知らないし止まれない。
(あと少し、あと少しで逃げ切れる!)
今日のために磨き上げられた屋敷に必死の靴音が響く。視線の先に見え始めた静かな廊下にイリーナは手を伸ばした。
けれどそこから一人の少年が顔を出したことでイリーナの足はゆるやかに動きを止めてしまう。
(逃げ切れる、はずだったのに……)
「探したぞ。イリーナ」
この人の存在を忘れていた。私的なエリアにも入ることの出来る兄の存在を。
「オニキス兄様……」
オニキスは表情を変えることなく階下にいるイリーナを見下ろす。イリーナとは違った深緑の色を宿した黒髪に、眼鏡の下から覗く同じ黄金の瞳は鋭い。
「イリーナ、母さんが探していたぞ。お前は今日の主役なんだ。むやみに姿を消して周囲を困らせるな。侯爵家の娘としての自覚を持て」
イリーナを咎める言葉には呆れが滲んでいた。眼鏡の奥では冷たい眼差しが同じ感情を宿している。
「兄様……」
ゲームでも顔を合わせるたびにオニキスはイリーナに呆れていた。横暴な振る舞い、芳しくない成績。オニキスにとってイリーナはどうしようもない妹でしかなかった。
目の前のオニキスと、ゲームでの場面が重なって見える。
(やめて。私を責めないで、呆れないで!)
「もう、いや……」
もう前には進めない。この兄の横をすり抜けて部屋まで戻る気力は削がれていた。
イリーナの足が一歩、後ろへ下がる。
「危ない!」
アレンの叫びが聞こえた。
(あ……)
身体が後ろへ傾いていく。
こちらに向かって手を伸ばす兄の姿がゆるやかに再生され、遠くなる。
侯爵邸の長く立派な階段。その上から転がり落ちたらどうなるだろう。きっと痛いでは済まされない。
終わったと、イリーナは思った。
迫りくる痛みに身体を強張らせる。
しかしイリーナの身体は何者かによって受け止められていた。
背後でアレンが自分を呼ぶけれどもう知らないし止まれない。
(あと少し、あと少しで逃げ切れる!)
今日のために磨き上げられた屋敷に必死の靴音が響く。視線の先に見え始めた静かな廊下にイリーナは手を伸ばした。
けれどそこから一人の少年が顔を出したことでイリーナの足はゆるやかに動きを止めてしまう。
(逃げ切れる、はずだったのに……)
「探したぞ。イリーナ」
この人の存在を忘れていた。私的なエリアにも入ることの出来る兄の存在を。
「オニキス兄様……」
オニキスは表情を変えることなく階下にいるイリーナを見下ろす。イリーナとは違った深緑の色を宿した黒髪に、眼鏡の下から覗く同じ黄金の瞳は鋭い。
「イリーナ、母さんが探していたぞ。お前は今日の主役なんだ。むやみに姿を消して周囲を困らせるな。侯爵家の娘としての自覚を持て」
イリーナを咎める言葉には呆れが滲んでいた。眼鏡の奥では冷たい眼差しが同じ感情を宿している。
「兄様……」
ゲームでも顔を合わせるたびにオニキスはイリーナに呆れていた。横暴な振る舞い、芳しくない成績。オニキスにとってイリーナはどうしようもない妹でしかなかった。
目の前のオニキスと、ゲームでの場面が重なって見える。
(やめて。私を責めないで、呆れないで!)
「もう、いや……」
もう前には進めない。この兄の横をすり抜けて部屋まで戻る気力は削がれていた。
イリーナの足が一歩、後ろへ下がる。
「危ない!」
アレンの叫びが聞こえた。
(あ……)
身体が後ろへ傾いていく。
こちらに向かって手を伸ばす兄の姿がゆるやかに再生され、遠くなる。
侯爵邸の長く立派な階段。その上から転がり落ちたらどうなるだろう。きっと痛いでは済まされない。
終わったと、イリーナは思った。
迫りくる痛みに身体を強張らせる。
しかしイリーナの身体は何者かによって受け止められていた。