【電子書籍化】悪役令嬢は破滅回避のため幼女になります!
(私は自分の意思でアレン様を助けに行くの!)

 覚悟を決めたイリーナはもう外に出ることを躊躇わなかった。元の身体に戻ることも考えたが、運動不足の十七歳より幼女の方が体力があるだろう。イリーナは幼女の姿で走った。

(私は私、もらった力だって私の一部なんだから!)

 与えられた力だとしても、それを使いこなしたのはイリーナだ。両親も、兄も、そんなイリーナを褒めてくれた。その期待に応えようとしたのはまぎれもない自分で、褒められて嬉しかったのも自分。そこにファルマンは関係ない。
 愛し子愛し子と口うるさいファルマンに、胸を張って私は私だと言えばいい。そのためにも彼にはもう一度会う必要がある。

(会って文句を言って、私を愛し子に選んだこと後悔させてやる! まずは学園に行ってライラを止めて、それから……)

 後悔させてやる。つまりはファルマンに一矢報いてやりたい。参考までに彼のエンディングを思い出してみよう。

(ファルマンのエンディングは確か――)

 ファルマンの長い孤独を知った主人公。主人公はファルマンと時間が許す限り彼を楽しませることを誓い、幸せそうに手を繋ぐエンディングが流れていた。
 攻略されて多少丸くなって終わるという設定だ。あまり参考にはならなかった。

(無理! 私悪役令嬢だし! いや違うけど、あんな面倒な人の相手は無理!)

 そもそもファルマンを攻略するつもりはない。しかし普通に怒りをぶつけたところで面白がられて終わりか、最悪流されて終わりだ。仮に罪があり裁かれるとしても、それすら退屈しのぎとして受け入れてしまいそうな気がする。

(もっと何か、ファルマンが堪えることでダメージを与えたい)

 イリーナは悩みながらも外へと続く扉を押し開けた。

「あ……」

 門すら遠い侯爵家の敷地。学園までの道のりは遠く、馬車も見当たらない。イリーナは果てしのない距離を前に途方に暮れた。しかも絶望的なまでに道がわからない。

(くっ……タクシーがない!)

 今度こそ元の姿に戻って走る方べきか。しかし歩幅が大きくなったところで引きこもりの体力をあてにしてはいけない。
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