5月31日 朝の話
作り付けの小さなキッチンへ向う。

料理を作るわけではない。
顔を洗うのだ。

一昨年引越したこの家は保育園を改造した一軒家。
普通の家の作りではない。1階と2階それぞれに玄関があって二世帯住宅のようになっている。
1階には家族が住んでいる。
生活が不規則なこの仕事をする自分にとって都合のよい物件だった。

自分の部屋がある2階にはお風呂以外の全てのものはついているが洗面所と呼べる場所がなかった。

手を洗ったり顔を洗ったりヒゲを剃ったりするのはもっぱらキッチンだ。
その洗面所がわりのキッチンで顔を洗った。
冷たい水で顔を洗うと一気に目が覚める。
嫌いじゃない感覚。

クローゼットスペースの扉を開けた。
大好きな洋服が山ほどあるこのスペースも好きな場所だ。
グレーのノースリーブと膝丈のカーキのパンツ。
キャップは赤ベースの最近お気に入りのを選んだ。

テーブルに置いた財布とタバコとライターをポケットに突っ込み玄関のドアを開けた。

部屋中に朝の柔らかい日差しと爽やかな風が吹きこみ思わず目を細めた。



< 8 / 10 >

この作品をシェア

pagetop